RPAを導入する際、まず必要になるのが要件定義です。要件定義が十分でない場合、RPAに記載された機能や性能を満たさない、プロジェクトの範囲が拡大しすぎてしまうなどのリスクがあります。
リスクを顕在化させないためにも、RPA開発上における要件定義のポイントを押させておきましょう。当記事では、RPAにおける要件定義の概要、検討上の注意点、RPAの具体的な要件定義の手順をご紹介します。
RPA導入における要件定義とは?
要件定義とは、システムやソフトウェアの開発において、開発対象となる製品やサービスが満たすべき要件を明確にするプロセスです。
そもそも要件定義とは何か
一般的に要件定義には以下の内容が含まれます。
- 機能要件
- 非機能要件
- 制約条件
機能要件
機能要件は、RPAが実現すべき具体的な機能やサービスを定義するものです。RPAが行うべきタスク、提供すべきサービス、ユーザーとのインタラクションの仕方などが含まれます。
非機能要件
非機能要件は、RPAの品質属性を定義するもので、RPAがどのように動作すべきかに関する要件です。
パフォーマンス(応答時間や処理速度)、セキュリティ(データ保護やアクセス制御)、使いやすさ(ユーザーインターフェースの直感性やアクセシビリティ)、信頼性(システムの安定性やエラー処理)、拡張性(将来の拡張や変更への対応能力)などが含まれます。
制約条件
制約条件は、プロジェクトやRPAに適用される制限事項を定義するものです。技術的制約(使用する技術やプラットフォームの制限)、法的制約(法規制やライセンス要件)、時間的制約(プロジェクトのスケジュールや納期)、予算的制約(開発費用や運用コストの上限)などが含まれます。
なぜRPA開発上、要件定義が必要なのか
RPA開発上で要件定義が必要である理由は以下の通りです。
要件定義はRPA開発の初期段階で行われる重要なプロセスであり、プロジェクトの成功に大きく寄与します。十分な時間と労力をかけて、正確かつ詳細な要件定義を行うようにしましょう。
理由①:明確な目標設定
自動化すべきプロセスとその範囲を明確にすることで、開発チームが共通の目標に向かって効率的に進めることができます。
理由②:効果的な自動化
プロセスの特性を理解し、適切な自動化手法を選択することで、効果的で効率的な自動化を実現できます。
理由③:リスクの低減
プロセスの詳細やシステムの制約を事前に把握することで、開発中のトラブルや後戻りを防ぎ、リスクを低減できます。
理由④:ステークホルダーとの合意形成
要件定義を通じてステークホルダー間での合意を形成し、プロジェクトの進行における認識の齟齬を防ぎます。
検討上の注意点とは?
RPAの要件定義を行う際、気を付けるポイントがいくつかあります。注意すべき事項は以下の通りです。
- RPA要件定義上の注意点①:適切な業務を選定する
- RPA要件定義上の注意点②:業務フローの見える化を行う
- RPA要件定義上の注意点③:例外処理の特定
RPA要件定義上の注意点①:適切な業務を選定する
RPAは定型業務の自動化を得意としています。逆にいえば、繰り返し発生せず、また、ルールベースで標準化された業務でなければ自動化できません。
加えて、仮に業務を自動化できたとしても、業務の頻度や入力データ量が少なければ、自動化した際の効果は小さいです。
業務を自動化した際の効果まで想定をして、自動化の可否も踏まえた上で適切な業務を選定ください。
RPA要件定義上の注意点②:業務フローの見える化を行う
自動化を実装するためには、プロセスを詳細に理解し、明確にする必要があります。RPA導入時の要件定義時には業務フローを可視化し、各ステップを明確にするようにしましょう。
業務フローを記載する際には、各ステップで必要な入力、行われるデータ処理、得られる出力を特定し、明確にする点がポイントです。
RPA要件定義上の注意点③:例外処理の特定
開発における例外処理の特定は、自動化プロセスの安定性と信頼性を確保する上で重要な要素です。
例外処理とは、プログラム実行中に予期しないエラーや異常な状態が発生した場合に、適切に対応するための処理のことを指します。
RPAにおいては、自動化されたプロセス中に発生する可能性のある例外を事前に特定し、それらに対処する方法を定義する必要があるでしょう。
例外処理の特定方法として、例えば、自動化対象のプロセスを詳細に分析し、どのような場面で例外が発生する可能性があるかを特定する方法があります。
データ入力時に不正な値が入力される、ファイルが見つからない、システムがダウンしているなどの状況が考えられるでしょう。
RPA開発における要件定義の方法と手順を解説
RPA開発における一般的な要件定義の手順を紹介します。手順は以下の通りです。
- 要件定義ステップ①:業務の選定と評価
- 要件定義ステップ②:要件の文書化
- 要件定義ステップ③:テスト計画の策定
- 要件定義ステップ④:ツールと技術の選定
要件定義ステップ①:業務の選定と評価
開発におけるステップ1は、プロセスの選定と評価です。このステップは、自動化に最適なプロセスを特定し、その影響を評価することに重点を置いています。
自動化候補の特定と影響評価
RPAの導入による効果を最大化するために、自動化に適した業務を選定することが重要です。上述したように以下を評価基準として、適切な業務を選定するようにしましょう。
- 繰り返し性
- ルールベース
- 標準化
- データ入力量
その上で選定した業務を自動化することによるビジネスへの影響を評価し、プロジェクトの優先順位を決定します。評価のポイントとして例えば以下があげられるでしょう。
- 効率化
業務の自動化により、作業時間の短縮や処理速度の向上が期待できるかを評価します。 - コスト削減
人的リソースの削減や作業ミスの減少によるコスト削減が見込めるかを評価します。 - 品質向上
自動化によって一貫性のある処理が可能となり、エラーの減少や品質の向上が期待できるかを評価します。 - スケーラビリティ
ビジネスの拡大に伴い、業務の自動化がスケールアップしやすいかを評価します。
品質向上の観点でいえば、各RPAベンダーが提供するサンプルテンプレートを利用できるかが重要です。サンプルテンプレートを活用することで、ミスの少ない業務自動化を実現できるからです。
対象の業務に対してサンプルテンプレートを活用できるかもあわせて確認しておきましょう。
プロセスの詳細把握と例外処理の特定
あわせて自動化対象の業務を深く理解し、フローチャートを作成して可視化するようにしましょう。
自動化する業務を詳細に分析し、フローチャートで可視化することで、業務の流れを明確に理解することが目的として、以下を実施しましょう。
- フローチャートの作成
- 業務を構成する各ステップの特定
- 入力・処理・出力の明確化
業務実行中に発生する可能性のある例外やエラーを事前に特定し、対処方法を定義することで、自動化プロセスの安定性と信頼性を高めることを目的として以下の例外処理特定も進めてください。
- プロセス実行中に発生する可能性のある例外状況やエラーシナリオの特定
- 各例外シナリオに対する対処方法を定義
要件定義ステップ②:要件定義の文書化
プロセス分析と要件定義の結果をまとめて文書化し、関係者間での合意を形成することが重要です。プロジェクトの要件を明確に記述し、開発フェーズでの指針とするための文書を作成しましょう。内容は以下の通りです。
- 概要
プロジェクトの目的や背景を説明します。 - 業務フロー
自動化する業務のフローチャートや詳細なステップを記述します。 - 機能要件
自動化ソリューションが実現すべき具体的な機能を明記します。 - 非機能要件
パフォーマンス、セキュリティ、使いやすさなどの品質要求を記述します。 - 例外処理
プロセス実行中に発生する可能性のある例外やエラーと、その対処方法を記述します。 - 制約条件
技術的、法的、時間的、予算的な制約を記述します。
要件定義書を作成したうえで、プロジェクトの関係者全員が要件について共通の理解と合意をもちましょう。
ステークホルダー間での合意形成により、プロジェクトの進行における認識の齟齬を防ぎ、スムーズなプロジェクト運営が可能となります。
要件定義ステップ③:テスト計画の策定
自動化された業務が正しく機能することを確認するためのテストケースの作成とテスト環境の準備が必要です。
例えば以下のような自動化された業務が設計通りに正しく機能することを確認し、品質を保証するためのテストケースを作成しましょう。
- 機能テストケース
- 統合テストケース
- パフォーマンステストケース
また、テストを実施するための環境(本番データなど)を準備し、本番環境とは別の環境でテストを行うことで、テスト中の影響を本番環境に及ぼさないようにすることも重要です。
要件定義ステップ④:ツールと技術の選定
プロジェクトの要件に最適なRPAツールの選択と、自動化する業務が関連するシステムとのデータ連携方法の検討をします。
例えば以下観点から要件を満たし、かつ、効率的な自動化を実現するためのRPAツールを選定しましょう。
- 機能性
- 使いやすさ
- 拡張性
- コスト
- サポート体制
また、RPAを利用する場合、多くのケースで他システムとのデータ連携を行います。
したがって、自動化する業務が関連するシステムとのデータ連携方法を検討し、スムーズなデータのやり取りや操作を実現するようにしましょう。
ツールと技術の選定により、プロジェクトの要件に合った自動化ソリューションの開発・導入が可能です。
また、データ連携の方法を適切に検討することで、自動化プロセスの効率性と安定性を向上させることができるでしょう。
まとめ RPAを導入して業務を自動化しよう
RPA導入時には要件定義が必要です。この過程をおろそかにすることで、プロジェクト実現に向けたコストやリソースが余計にかかることが往々にしてありますので、注意して臨みましょう。
とはいえ、RPAに求める要件は実際にRPAを使い始めてみないとイメージがつかない方も多いでしょう。そのような方はクラウド型RPAやデスクトップ型RPAなど安価なツールをまずは用いて操作感を覚えることをおすすめします。
まずは使ってみて何ができるのか、ツールの選定ポイントは何か勘所から掴む方法がよいでしょう。